こんな緩やかな日が、いつまでも続くことを願っているなんて。



一年中温和な地中海に面するイタリアは、故郷・日本のような季節の大幅な変化を感じさせない。最初こちらに来たときは和食が食べたい、とか言ってリボーンから辛辣な一言を受け取ったことが、まるで昨日の事かのように感じた。そんなことをぼんやりと思いつつ、ボンゴレ・ファミリー十代目こと綱吉は自身の仕事場で、とある人物を待ち設けていた。
ガチャリと音を立て、確りとした造りのドアを開けて姿を見せたのは、霧の守護者、クローム・髑髏だ。前日の仕事振りから、今日一日暇を出された彼女は自分の部屋に遊びに来てくれたのだ。彼女の手には銀盤があり、その上には午後のティータイムを彩る品物が並んでいる。

 「ボス」
 「あ。持って来てくれたんだ、ありがとうクローム。任務お疲れ様」
 「ううん、いいの。」

 軽い挨拶と、取り留めない話をしながらお互いが椅子に座ると、それがいつも決まってティー・タイムの開始の合図だった。庭辺りで聞こえる破壊音はともかく、天気は良好で自分が学生だった頃であれば絶好の昼寝日和だ。だが今そんなことをすれば部下に仕事を急かされる所、今この時間ゆっくりしていられるのは自分が頑張って作り上げたものに他ならない。

 「スコーンとか、ジャムつける?」
 「うん」
 「そっか、今日は・・・そうだな、苺にしようか。」
 「ありがとう、ボス」

 嬉しそうに顔を綻ばせるクロームを見ていて、何故だか自分も嬉しくなりジャムを塗る手が軽くなる。時々だがこうして誰かをお茶に誘うようになったのはいつ頃からか。ぼんやりと思い出せるはずも無いことを思い出すという無駄に等しいことをしながら、スコーンを頬張った。口の中に甘酸っぱい苺の味とクロティッド・クリームが混ざり合い、とても美味しい。最近は特に忙殺されそうな日常だったためこうした緩やかな日が、いつまでも続くことを願っている。
 (あ、でもマフィアのボスが平凡ってのもなんか可笑しいか)
 どこか国でマフィアの自分達に憧れを抱いている少年達が、今の自分の様子を見たら吃驚すだろうな、と考えていると自然に笑みが浮かぶ。
 「・・・ボス・・・」
 ふと気づくと、クロームがこちらを不安そうな目で見ている。もしかして独りで笑っているのを気味悪がれたかな、と根拠も無い考えを巡らせていた。少し経って、彼女は口を開く。

 「いいの?・・・雲雀と骸様を止めなくて・・・」

 ああ、やっぱり?と心の底で密かに考えていた彼女の不安の理由が当たってしまったことに乾いた笑いを浮かべた。外から聞こえる破壊音は間違いなく彼らのもだとは知っていたが(窓の外を眺めていたし)、止めるのにもタイミングがある。今はその時でないだけだ。何度も止めているうちに何と無くコツが掴めて来た。最近では経験をつけたせいか、妙な慣れを感じている。

 「うん。あれはもう少ししないとお互い不燃焼だから・・・また喧嘩するまでの間が短くなるんだ。それに今は、クロームとお茶してるしさ」
 「ボスがそう言うなら・・・」

 と、華やかな微笑を堪えたクロームが言葉を続けようとしたその瞬間、防弾ガラスが盛大に割れる音が部屋中に響き渡った。

 ガシャーンッッ!

 いざと言うときのための防弾ガラスが見るも無残に砕け散っている。その様子に、クロームは至って自然な様子で「ボス、ガラスが割れたわ」と言った。どうやら慣れたと言っても、油断大敵らしい。幾度の経験も現実行動に起こさなければ意味がないと言うことを改めて気づかされた感じだ。
 はぁ、とため息をついているとクロームがこちらを心配そうに自分の方を覗き込んでいる。そんな彼女に「大丈夫だよ」と言って安心させると、彼女は気を緩め一息ついた。とりあえずスコーンを飲み込むためアールグレイの紅茶が入ったカップを片手に、窓から戦闘中の彼らを見つめる。

 (今日は骸さんが優勢・・・・か。先にそっちを止めたほうがいいな)
 とりあえず体力の残っているほうから。そう考え、次の行動に移すため手に持っていたカップで揺れているアールグレイを一気に飲み干す。さぁ、止めてくるかとくるりとドアの方を向くと、そこにはすでに武器を握り締めたクロームが立っていた。

 「私が止めてくる」
 「・・・いや、いやいやあのさちょっと待ってクローム。俺が止めて・・・」
 「ボスは忙しいでしょう?私が行ってくるわ」

 だから許可を。とでも言うかのようにクロームは此方をじっ、と見つめている。う、と声を呑むがここで引いてはいけないだろう。クロームは確かに実力のある有能な守護者だが、いくらなんでも相手が悪い。同じ守護者(といってもあの二人限定だが)を相手にするにはかなり危険なはずだ。それも喧嘩中とあれば、尚のこと。

 「俺が言ってくるから、クロームはお菓子とかお茶の量増やしといてよ。
後から二人追加させるから」

 自分の言葉に納得したのか、クロームはこくりと頷いた。
 あとの二人、とは彼女には言うまでも無いだろう。
 











 
 そして彼らの奏でる破壊音が止むのは、この後の話。


pomeriggio(伊):午後







+あとがき+
一言、言わせてください。・・・はまりました。
火付け役は言わずもがなクローム・髑髏さん、凪さん時代のストーリーで思わず引き込まれ
ついに作品を作るまでに至りました。いや、それにしてもマイナーな組み合わせにはまったものだ(いつものこと)
知ってる人は知ってますが、本編でツナさんと関わる機会、彼女あんまりないのですよ。
いやいやでも頬にさ、ほら、あれ・・・ね(何)
「イタリア」って言うのもはまる要素の一つでした。大好きです、ヨーロッパ!
ちなみにこのサイト、使う言葉にほぼ作品の数に比例してます。
とかどうでもよかったりする裏話。