太陽が地平線に溶けていく。心のざわめきはリズムになってドアを叩き、誰かに助けを呼んでしまいそうになるほど荒れていた。それを自覚すると同時に自分の弱さを実感する、自分は目の前の相手を説き伏せる力を持っていないのだということを。廃墟に吹く微風は湿気を帯びて肌に纏わりつく様な不快感を煽り、胸に滴り落ちては溜まっていく憤りは溜息にも似た呼気に消えることは無い。自分の中の、もう一人の自分が嘲る声が脳裏に焼きつく。分かっている、と子供じみた返事をするにも意味は無い。相手は自分だ。この状況を苦々しく思うのも、機会を得た喜びを感じるのも、同じ事を繰り返すことに対して嘲るのも。この空間では自分と彼女しかいないというのに。

 「またその男を助けたのか」
 「・・・・・・・・うるさいぞ、C.C.」

 柱の影から薄黄緑の艶やかな長髪を揺らした女性、C.C.が薄闇から顔を出す。何時もと変わらぬ口調に荒々しく返すが、その行為とは逆に心中では彼女が言わんとしていることは十分理解していた。今目の前にいるのは、「黒の騎士団」の敵である白兜のデヴァイサー――柩木スザクその人だ。戦闘中に張った包囲網に見事に引っかかり、ハッチを開けてみればそこにいたのは意識を失ったデヴァイサー。捕虜扱いでこの場所まで連れて来るまでの間、カレンに危険だと言われながらもこうして相対しているのは、仮面を被ったこの姿と地位で改めて話しかけたいと望んだからだ。隣の女は「いくら仲間に誘っても、その男は首を縦に振らないのにか」、と呆れた仕草で言い放つ。柱に背をもたれている女を一瞥し、眼下で未だ意識を失ったままの親友に視線を移した。
 昔と比べて他人優先で、規則に限りなく殉じ、口調が幾段も穏やかになった相手。目の前の男を説明する言葉なら幾らでも浮かぶだろう、それほどまでに名誉も不名誉も混ぜ合わせた華々しい路を歩んできたのだ。ユーフェミアの騎士でありクロヴィス暗殺の元容疑者にイレヴンで柩木ゲンブ元首相の嫡子。様々な軌跡が弧を描く、偶然にも似た必然の出来事が絡む中で七年前に出会った。自分の最初の友人は、今では自分の正反対の場所にいる敵だという皮肉が思考を蝕む。

 「力を使えばいいだろう?またお前の意地か、それとも・・・」
 「その手なら、もう使ったよ」

 出来れば使いたくなかったがな、という言葉を呑み込む。変な弱みをこの女の前で曝け出すのは避けたい。いつもコイツは、望んでもないのにナイフの様な言葉を送る。
 ギアスで命令した内容は、“生きろ”というものだった。それが相手にとってどんなに残酷なことかは知っていた、そして彼が心の何処かで死にたがっていることも。だからこその命令であり、あの時自身を守る術であった。王の力は絶対だ、それが自身の息の根を止めることであっても地位を投げ出す行動であっても従わねばならない。そして、生きなければならなくなった彼はもはや死にに行く行動がし難くなった、白兜の強みの一つでもあった“無謀さ”をあの命令が剥ぎ取ったのだ。だが剥ぎ取ったところで、実際何も変わらない。未だに彼はランスロットのデヴァイサーで、ユーフェミアの騎士なのだから。

 ゆるゆると瞳を閉じる。黒に埋もれゆく視界の端に映る親友を改めて見つめ、唇を噛んだ。音も無く崩れていく相手への梯子は既に手の届かぬ遠くへ消えて。否、音も無くというのは嘘だ。確実にそれは警報の音を高らかに鳴らしていた。只自分がそれを無視し、時に拒否しただけのことだ。耳を塞いでいたから、目を背けたから、だからそれは微かな力しか持つことが出来なかったのだ。遅かったというべきなのか、自分に彼を止める術を持っていたのならばよかったのに。いや、若しかして持っていたのかもしれない、只それに自分が気付くことができなかっただけの話で。
 
 (どれだけ手を伸ばしても、お前は振り払っていくんだな)
 ふ、と嘲るように口端を歪めた。

 他人優先になっても言葉遣いが変わっても、肝心な頑固なところは何も変わらない。その手を振り払うのは、彼にとって「ゼロ」は正義ではないからだ、そのやり方も行為もなにもかも。誰かにとっての正義であるゼロという存在は、彼にとってそうではなかった。テロという相手の重んじるの”規則”から大きく逸れた手段を、彼は憎んだ。その思考が恐らく彼と今の自分の境界線なのだろう。だがそれだけではない、自分はシャーリーの父の仇でもあるのだ。過程を重視するか否か、割かれ目はそれだけではないけれど。
 目の前で静かに意識を手放している男。親友でもある目の前の人物が同じ立ち位置にいてくれたら、どんなに楽だろう。頭蓋の底に溜まる汚泥はいつまでも浄化されないままで何時までも消えない。何時来るかも分からぬそれを心の奥底で、望んでいるなんて滑稽な話だ。自分から動かなければ何も掴めない、そう言ったはずなのに。あるはずもない浄化を待ち続ける。この男さえ此処にいなければよかったと、戦場で思ったのは相手を思うこそなのだと。
 思考を巡らすのをやめて視界を開けたその先に、日が沈むのが見える。灰色の無機質なコンクリートの狭間で光るそれは、租界に灯る外灯の微弱なものとは違い、力強い輝きを放っていた。灰色に染まらぬその光は誰かを連想させて。だがその直ぐ後に、

































天のダイヤは音もなく地面とまじわった



+あとがき+
このサイトのルルーシュ+スザクはあくまで友情ベクトルです。
殺さなければならない戦場に友人にいて欲しくないという感じで、
こいつさえいなければという言葉は存在ではなく戦場という場所にいることに対して。
・・・・というか、いっそお父さん気分でもいいような(ォィ)

とりあえずサイトの関係構図はこんなです。
ルルーシュ→(あくまで友情ベクトルorお父さん気分)スザク→シャーリー(でまた最初に戻る)みたいな三角関係希望・・・!(またマイナーな)
スザ+ユフィの場合は「×」でなく「+」、時々相反すればいいと思います。
(実は二十話で撃墜されたのでこの二人が好きだったり)