さて、この状況をどうしたものか。




 「強化人間?あの女の子が?」
 シンがガイアのパイロットを連れてきた。そうヨウラン達に聞かされて、早速医務室に来て見た。何度見ても強化人間というイメージが一向に湧かないし、むしろ民間人を連れてきたんじゃないだろうかとまで思った。病状は回復してないらしい。ミネルバもこのまま艦を進める方向だそうだ。
 胸に残るわだかまりはきっと、この子への不憫な気持ちと、同情を含んだ悲しい気持ちだろう。
 「えーっと・・・シンがいないから・・・・・」
 どうコミュニケーションを取るべきだろうか。シンから聞くにいろいろ大変だったらしい。こんなか弱い女の子があんなものに乗っているのだから、それは無利したのではないだろうか、そういった思考が幾度かよぎる。そういえば自分もパイロットだが、目の前の少女とは似ても似つかぬほど活発に動く。

 今は、どうやら安定しているらしい。唯一のこの子の知り合いといえばシンしかいない。だが、その当本人は艦長からの長い説教を受けている頃だろう。今ここに来てもらう方法はまったくと言っていいほど無い。
 さて、この状況をどうしたものか。
 「ランチ、持ってきたんだけどなぁ・・・・」
 食べるだろうか。きっとお腹をすかせている。そう思って持ってきたのまでいい。そして医師の確認も取った。考えてみれば、どうやったら食べてくれるだろう。ランチのおまけにコーンポタージュをもって意気込んできた。ああ、どうするべきか。
 「とりあえず・・・・えっと、ステラさーん・・・・・?」
 名前、なんだったっけ。ふと思い直し記憶を辿ると、次第に鮮明に思い出してくる。ことある事に「ステラ」という名前だろうと思える言葉を言っていた。おそらく、この子の名前だろう。それにしても、呼びかけて返事が返ってくる様子が無い。意識は確認している。
 「私、ルナマリア・ホーク・・・っていうんだけど。つらい目にあったとおもうけど・・・・さ。ね、とりあえず食べてみないかな?」
 酸素マスクは取り外してあった。意識も正常だ。あとは、こちらから誠意を見せるだけだ。
 自分に言い聞かせるように何度もその言葉を頭の中で反復させる。スプーンでスープを掬い、身を乗り出して口許まで持っていく。
 食べないかもしれないが、やるだけのことはやりたい。結果はその後だ。脳裏にはおそらく食べないで振り切るんじゃないだろうかという予測が囁くように蠢いている。それを肯定する気はない、そういう答えを自分の中ではじき出す。
 
 意外にも、その女の子はスプーンを銜えた。

 「・・・・・・へ?」
 呆気に取られて、つい無意識下におかれた言葉が口から吐き出される。食べないと思っていたその女の子は、スープを飲み込むと嬉しそうに花のような笑みを浮かべた。きっと、「かわいい」女の子とはこういうものなのだな。と、女ながらに思ってしまう。
 安堵の息が漏れ、私も顔を嬉しさに緩ませた。

「大変だったね・・・・私も、守るよ。・・・・・だからさ、あいつもよろしくね」

 弟のような彼。きっとあの男にとってはこの子は守りたい存在なのだろう。気分はさながら、本当の姉のようだ。とうとう手の掛かる弟もこれで卒業だろうか。自分の考えに笑いがおきそうになったが、その場はかみ締める。彼女がここにいる間はせめてでも守ってやろう。こうやってみると妹のようだ。実の妹とはあまり意見が合わないこともあるが。弟のお相手は、やはり義妹か。

 お互いに笑みをこぼすと、金色に光る少女の髪を撫でた。
 




パシュッ



 奥に響く独特の開閉音。おそらくシンだろう。さぁ、私の出番もこれまでだ。そう思って硬い椅子から腰を上げた瞬間。あまり聞かないか細い、というよりも甘さを含んだ弱弱しい声が大してそんな声量でもないのに、鼓膜に打ち付けられるように一際自分の中で響いた。

「・・・・ルナ、ステラ・・・・守る・・・・?」
 願いにも似たような小さな呟きが聞こえる。焦って目のやり場を転々と変えるがやはり最後は元に戻ってしまうわけで、しばらく息が止まった気がした。目の前の相手はと言うと、瞳を輝かせてこちらを見てくるものだから、ただでさえ出て行くのに気後れするのに、それがまた積み重なって余計出にくい。結局はまた椅子に座った。すると、少女の手が自分の手を握る。
 数分前に物憂げな顔で問われ、少し時間が経った今となっても対応に困る。シンも、おそらく苦労したのだろうな。戦友であり弟のような彼へ妙な実感が湧いてくる。とりあえずこの状況を回避することが必要だ。思慮をめぐらしどうにか言葉をだそうとする。ああ、今は彼女の問いを肯定してあげることが先決だ。
 「う、うん。守るよ・・・・?」
 とりあえず苦笑い程度に表情を変える。というより、考えてもどう対応するのかわからない。とりあえず雰囲気から察するに、不安なことはわかった。理解したまではいい、けれども。それと今どう対応するかは別物で、彼女の不安だと思われる気持ちを汲み取るべきか、それとも適当に言い残してここを去るか。
 いや、どうしても後者を選ぶわけにはいかないだろう。
 
 「・・・・・ルナ?来てたのか」
 助け舟の登場。それを嬉しく思うと共に、弟の相手であるこの少女から強く握られた手を離すわけにいかずにそのままの状態でいた。誤解されるだろうか。シンは不審そうにこちらを見てくる。が、「仲よくなったんだな」と顔を綻ばせながら言うと、私の横に別の椅子を置き、腰掛けた。ふぅ、と一息深くため息を吐く。少し二言三言言葉を交わすと、私は彼女の話を切り出した。
 「なんかね、妹みたいな感じするね。私がお姉さんで、あんたが弟」
 ステラという少女に。そしてその相手である弟分にも笑いかけた。
 「ルナ・・・ステラのお姉ちゃん?」
 ステラは身を乗り出してその瞳を向ける。幼いその仕草に小さい頃の実の妹と重ねる。そういえば、あの子もこういう頃あったよな。と、おそらくは同年代であろうその少女に子どもという言葉が合うんじゃないかと思ってしまう。懐かしい、姉貴風など吹かした覚えは無いが、どうやら仲間内では吹かしているらしいことを不意に思い出すと、いまこうやって彼女に関わるのもその性からきているのだろう。
 「そんなものかな」
 にっこりと互いに微笑みを交わす。すると、小さい子が母に甘えるように身を寄せてきた。
 「ステラもよかったな。俺じゃ会えないこともあるし・・・・・」
 普段は表情を硬くしているシンも、歳相応の微笑を浮かべる。
 弟と義妹の中間。見守る位置がとても心地よく感じる。
 仄かな幸せをかみ締め、さてそれじゃあ帰ろうか。と言い掛けて、椅子から腰を上げて立ち上がる。その瞬間に先ほど感じた彼女の弱い声とは少し違う、強みを僅かに含んだ声が耳朶に触れた。



 「ステラも行く」
 不意に繰り出された、彼女の爆弾発言。

 『・・・・・・は?』


 二人の声が重なる。さすがは長年の腐れ縁。と思いかけるが、いかんせん。そう思ってる場合ではない。彼女が艦内を歩いたら余計に病状が悪化するだけだ。これ以上悪化したらさっき「守る」といった私の立場はどうなる?せめてでも、彼女はここで静養しないといけない。隣の男もそれは承知しているようで、必死に彼女を説得しようと焦りながら頭を抱えて言葉を探している。
 「いや、だからね・・・・連いてきちゃったりしたら・・・・」
 貴方の病状が危ないから。そう言おうと口を開く。そのとき、彼女が手首を掴んできた。要は、「行くな」と言いたいのだろう、おそらく。先ほどまでの手は去ったが、今度は手首まで掴まれてしまった。これでいよいよこの場から今、去ることはできない。強く握り締められている様子を見て、今の病状からどうやったらそんな力がでるのだろうと疑問を覚えながら説得しようと声をだそうとする。だが、それは最適な言葉の不足という理由であえな詰まってしまう。
 「ステラ・・・・ルナはな・・・・・」
 唯一の助け舟ことシンが子どもに言い聞かせるように言う。だが。
 「・・・・・・・・・・お姉ちゃん」
 断固として手を離さないようだ。ああ、もうそれだけ親しんでくれたんだな。と嬉しく思うも、その考えが少し現実離れしていることに気づいてしまう。とうとう彼女は自らのほうへと引っ張って、私の手を抱きかかえ始めた。

 「ステラ・・・・ルナはこれから部屋に帰るから・・・・・」
 これじゃあ妹を嗜める兄の図が完成してるんじゃないかと思うほど、今の状況にはその構図があっていた。手首を握り締め、親しみを持ってくれたのは嬉しい。が、部屋に帰らないといけないのが現実だ。頭を少し抑える。その間にも弟分が隣でがんばってくれていることに感謝の辞を言いたいと思った。
 「ステラ、離してやれって・・・」
 シンがもう片方の私の手首を掴み、引っ張った。両手を引っ張られ、身体が左右に行き来する。本当に姉弟妹だったら余程面白いことになってただろうに。と、どうしようもないことを考えながら今の現状から思考を逃避まがいに泳がせた。弟分と妹分に引っ張られている今の自分はどう見えているだろうか、他の人に。
 「ルナは帰るんだって、ステラ!」
 弟分が言い聞かせるように言っても、どうやら聞いてくれないようだ。彼女の手を振り払うわけにもいかないし、ましてやここにずっと座っているのは苦痛だ。それよりも、とりあえずこの掛け合いを仲介するのが最優先だ。
 此処は一つ、姉貴分として助言をせねば。






「じゃあ、私此処で泊まろうか」
 沈黙が、よぎる。
 妹分の彼女は大層嬉しそうな顔を表していたが、一方の弟分はというと頭を抱えて悩んでいた。






さて、この状況をどうしたものか。





Muchacha (西):少女





+あとがき+
なんかもう趣味に突っ走るだけ突っ走ったような気がします。(笑)
デス種知ってる友人に「シンとルナマリアのコンビが好きだ」とかいうと、ステラ嫌いに見えるのか。
「本編じゃシンステだから」とか。
実際ステラは嫌いじゃありません。というより主人公よりヒロイン同士仲良かったらいいなぁ、と。
レイとシンとルナの3人も良いですが、この3人も兄弟みたいで好きだったりします。
いや、完全捏造入ってますが。脳内ではこんな感じです。

シン:妹(ステラ)に懐いて欲しいとはおもいつつ、姉(ルナ)を取られた感が大いにあってなんとも
複雑な気分。
ステラ:今まで兄代わり(オクレ氏・アウル氏)に囲まれていた反動か、同性の年上(ルナ)に甘えまくる。姉(ルナ)が優しいものだからそれに拍車をかけ、何処に行くもヒヨコように付いて行く。
ルナ:姉御肌、世話好き、シン(弟)とステラ(妹)もいっそ男らしく面倒見てしまいそうな勢い(ォィ)。近頃本当の妹(メイリン)がどうやら自分になついてくれないため、特にステラ(妹)がなついてくれていることに嬉しく思っている。

とりあえず、シンとステラあたりがお姉ちゃんの取り合いをやってるといい(謎)