きっとまた、くだらないことなんだろう。




 朝から天候はあまり好ましくない、曇り。数度の俄雨に会いつつも近頃はこれといった戦闘もなく平和な日々を過ごしている。ルナマリアにとって嬉しい事といえば、ステラの体調もあまり気にすることも無くなったことだろう。それも一重に医務室の人達が尽力してくれたおかげだ、この前はそのお礼にステラと共に差し入れを持っていったところ、複雑な顔を見え隠れさせながら嬉しそうに受け取ってくれた。
 ステラはルナマリアと一緒にいることが多かった。最初に会ったのはシンなのだが、自分には悪気はないことはきっと彼も分かってくれるだろうと思っている。というよりも、ステラとルナマリアが一緒に居る回数の次ぐらいに、私とステラとシンの三人で行動することも多くなった。

 「お姉ちゃん、シャワー室一緒に行こ・・・・」
 通路にて偶々会った姉に、丁度いいと誘いの言葉を掛ける、あとは“う”と言って言葉を完成させるはずが、目の前の事態にメイリンは思わずそれすら忘れた。思えば強化人間のステラとは姉ほどの面識はなかった、それも当然のことなのだが、目の前の少女が姉の手を繋いでる事に驚いた。いつのまに、姉とこの少女はこんな親しい仲になったのだろうか。

 「あ、メイリン。ステラも一緒でいい?」
 目の前で茫然としているメイリンに、ルナマリアは「大丈夫?」と声を掛ける。一体全体、何がどうしたというのだろう、いきなり。暫くの間茫然しているメイリンが漸く正気に戻るのを確認すると、一言二言交わしてシャワー室へ足を向けた。先程のメリンの沈黙が気になったが、あまり深く考える事ではないという答えで決着をつける。そういえば久しくメイリンと一緒にシャワー室に行ってない。今日は、ゆっくりと談話できるだろうか。
 
 基本的には消灯より幾分前の時間に入っておき、残りの時間は談話や遊びに使う事が自分には多かった。いくら軍といっても当然二四時間消灯なしというわけにもいかない。整備や交代の時間以外は一定の目安として消灯時間が設けられる、ということだ。パイロットは戦闘時、MSの調整や技術スタッフの傍らで話すなどぐらいしか特に仕事は無かった。その分妹のメイリンはというとMS通信管制の仕事で、夜は時折会わない時がある。今日は、時間合間を縫って来てくれたらしい。
 

 
 シャワーを浴びて着替え、一息ついた。今日も終わったのだという開放感を覚えながら、これから何をしようかという思案が巡る。シンを呼んで、三人でトランプするのもいいな、と思っていると、髪をびしょ濡れにしたまま首にタオルを掛けただけのステラが傍に座る目に入いる。これでは風邪をひくだろう。そう思って立ち上がり、近くのタオルを手に取ると綺麗な金髪の髪に被せた。多少荒いがさっさと髪を乾かすと、自分を仰ぎ見るステラの視線を感じて口を開く。風邪引くよ?と言うと、
「・・・・・・ステラは風邪、ひかない・・・・」とだけ呟いた。
 聞けば引いた事はないらしい。ああ、通りで気にしないわけだ。彼女はコーディネーターのように、またはそれ以上に強いと聞いたことがある。おそらくはその自負からきているのだろうと一人で納得していると、メイリンがこちらを見ている事に気づいた。

 「わー・・・・・」
 自然と口から言葉が吐き出される。何を意味するわけでもなく、目の前の光景に驚き半分と溜息半分といったところだろう。
本当に姉妹のようだ、と思ってしまった。そういえば昔は姉に髪を乾かされたものだった、世話焼きな性格の反面自分の事には疎く、姉の方が風邪をひいたことがある。なんとも、今こうしてみると昔が懐かしい。
自分があまり姉と一緒にいないことが関係しているのならば仕様が無いが、なんとも妹の役目を取られた気分で悔しい気持ちも少しあることは否めない。その矢先、姉が自分の髪を乾かさずにタオルを首に掛けているだけの姿が目に入った。

 「もーっ、お姉ちゃんってばこういうこと気にしないんだから!」
 予備に持ってきたタオルで、少し背の高い姉の髪を拭いてやる。姉からは、気にしすぎだなどと言われる。冗談じゃない、自分が普通だろうに。と悪態をつきながら手馴れた手つきで拭き終わった。ふと傍にいる少女に目を向けると、拗ねた表情でこちらを見てくる。その表情に、思わず笑みを零した。きっとこの子も先程の自分と同じような気分なのだろう、なんとなく分かる。

ここはまぁ、「妹」の特権と言うやつで。

 「あ、交代だ・・・・私もう行くねっ!」
 姉とあの少女を背に走りながら、ブリッジに行くまで頬の緩みは止まなかった。
 


 
 



 朝から気持ちは釈然としなかった。おそらく原因はあのルナマリア・ホークにあることは自分の中で明瞭だ。溜息を呼吸に度々混じらせていた。やっと、一日が終わるのか。とぼんやり考えながら自動販売機目当てに通路を歩く途中、目の前に見知れた姿が二つあった。遠方から見てもおそらく分かるだろう、ルナマリアとステラだ。あちらも、こちらの姿を確認すると手を振って近づいてきた。
 「・・・・・・・どうしたの?」
 目の前の妹分の様子に、呆れ半分と驚き半分で言った。その表情はというと時々拗ねたものになったり、何か考え事をして俯いていたりの繰り返しだ。というより手を繋ぐというのはいつもの事だったが、今は何故か腕ごと抱いている。本日何回目か分からない溜息をついた。大丈夫か?と声を掛け、こういうときだけ兄貴風を吹かす。マユも確かこういうことがあったなと、ふと思い起こされたステラの複雑そうな表情にルナマリアも不思議そうに声を掛ける。
 「さっきメイリンとシャワー浴びてきたんだけど・・・・何かあったかな?」
 「あぁ・・・それか・・・・」
 大方、妹だと言われてステラは混乱しているのだろう。またくだらないことを考えているなと呆れながらもこの二人には世話を焼いてしまうからしょうがない。

 「え、私何かやった?!」
 「いや、違うと思うけどさ・・・・それで、何か用?」
 「用って言うか、これからシンの部屋にでも言ってトランプしようかなー、と」
 「・・・・・散らかすなよ」

 遊びに来るのは反対しないけれども、毎度毎度、遊びに来る度に散らかしていくから困る。結局後々片付けるのは自分なのだ、と言ってしまっても断れないのが自分の弱いところなのかもしれない。それにしても、いつまでステラはルナマリアの腕にしがみついているのだろう。
「・・・・暑くない?腕。」
「別に、暑くないけど。どうして?」

 全く気にしていない様子だ。生来さっぱりした人柄で細かい事は気にしない奴という事は知っていたがここまでくると気にしないというよりも「鈍感」だ。姉貴を取られた弟の気分だろうか、やはり釈然としないのが正直なところな訳で。そう思いながらも、自室へと足を進める。今度は一人ではなく、三人だ。またトランプで昼食のデザートが取られるのかもしれないと思うと、少し損する気分だ。


 歩を進めながら、隣の弟分に目を向ける。これまたステラの表情に負けるとも劣らず、拗ねた表情で眉間に皺をよせたり、呆れた顔で溜息をついたりと繰り返している。案外この二人、共通点があるじゃないかと微笑ましく思った。二人して表情をくるくる変える様は見ていて可愛いというか。微笑ましい、というのが妥当な所だろう。
 「じゃあ私が勝ったらプリン貰うわよ」
 「この前、俺に負けても取ってったくせに・・・・」
 恨めしそうにこちらを睨む弟分の頭を荒っぽく撫でてやる、
 「そういうことは気にしないのよ」と言うと、真っ赤な顔で反論してきた。

 「子どもじゃないんだからそういうの止めろって!」
 「あんた年下でしょー。あ、ステラもプリン食べる?」
 「・・・・・・・・・・・・食べる」
 「よし、決定!一緒にシンのプリン取ろうか。」
 「二人がかりで俺のプリン取るなよ!」

 日常茶飯事の如く、いつものように冗談交じりに言いあった。
 消灯までまだ長い、今日もまた楽しい会話ができそうだ。ふと隣を見ると複雑そうなシンの表情があった。また何か考えているのだろう。案外変なところで気難しいのだ、シンは。
 三人で遊ぶとなると、自然と足取りが軽くなる。意気揚揚と、今は複雑そうな表情をしているシンの部屋へ足を進めた。きっとまた、くだらないことでも考えているのだろうと思いながらも。明日は何をしようか、と考える。
この雨もいつかは止む。甲板に出れば綺麗な景色が望めるだろう。



















そうしたら三人で、一緒に虹でも見に行こうか。



Lluvia (西):雨





+あとがき+
今回は「メイリンも」というWeb拍手にて欧様からのリクエストとなりました。
メイリンを二次創作で書くの初めてです(あわわ)。キャラ大丈夫だろうか・・・;
本編では波乱の人生を送られている彼女も、最終回にはルナマリアと再会してほしいなぁと思いつつ。
なんだかんだ言って、仲のよい姉妹だったと思います。
今回の更新(8月25日現在)のタイトルは「雨関係」でなので、自然とこんなタイトルになりました。
甲板に行った三人が虹を見る話も書きたいなぁと思いつつ、文が雑ですいませ・・・!(汗)
今回は「プリンネタ」再び、ということで(笑)
ようやくカテゴリ入りを果たしたシン+ルナ+ステも3つ目です。
なんだかんだでもう最終回近いですね(しみじみ)