「・・・・・・・・・・・・・・・・・・困った」 街のショッピングモールで悩むこと1時間。明日はアカデミーからの腐れ縁、ルナマリア・ホークの誕生日だということで、プレゼントを買いに来たものの。 何を買えばいいのか、そもそも女って何貰えば嬉しいんだろう。 そう考えながらこの通りをぐるぐる回ってもう1時間。そろそろ帰りたいが、彼女のプレゼントが最優先だ。マユがいたころもプレゼントをせがまれた当時のことを思い出す。クマの人形やアクセサリーなどなど、まぁ幼い頃だったし。ルナがクマの人形やネックレスなどのアクセサリーが欲しいとは思えない。 さて、どうしようか。 こうしてぐるぐる回っているだけでも、いらいらが募る。髪をかき乱して一から考え直そうとするが、どうにも考えが浮かばない。 ――――――・・・・・・・・あ、そういえば。 あることを思いつく。それからは困惑していた頭が透かされたように明瞭になった。よし、と意気込んで拳を固めた。足先をショッピングモールの食品売り場に向けて進む。自然と足取りが軽くなって意気揚揚と買いに行く。 その後の、にわか雨は予想外だったが。 「あんた、馬鹿でしょ」 鋭い声が一つ。 あのあと買い物済ませて外に出れば激しい豪雨。地球は天気の変化が激しいと聞いたが、これは予想の範疇を大きく超えていた。 結局ずぶ濡れになりながらミネルバに戻った。レイが言うには、疲れて濡れたまま眠り込んでしまったらしい。それも、熟睡だったそうだ。その後は当然風邪をひいた。言い訳の仕様が無い、自分の馬鹿さ加減にため息が出る。 「うる、さい・・・・っ」 熱がでて、冷たいタオルを額に乗せたまま息を切らして反論する。呼吸が通常どおり行えない。加えて汗が頬を伝って気持ちが悪い。もはや、最悪としか言い様が無い。唯一の救いは、彼女へのプレゼントが無事だったことぐらいだろう。 「もー、本当に心配かけるんだから。あ、起きられる?」 「・・・・・・・・・多分」 それだけ言って重い上半身を起こした。ふぅ、と一息をつくと、彼女から差し出されたボトルを受け取り、ストローを銜える。冷たいスポーツドリンクが心地よかったが、喉を過ぎるとまた同じ状態に戻る。 「熱、なくなった?」 突然、こつん。と音を立てて彼女の額と自分のそれが軽くぶつかる。 彼女の髪や、青い綺麗な瞳まで、いつもの数倍近くにそれらが見えた。 脈拍が急に上がるのを嫌でも感じてしまう。 「う、わあぁっ!!」 思わず後ずさりして、頭と壁がすごい勢いで衝突する。顔がありえないぐらいの熱を帯びているのを感じた。それを見て彼女は、「大丈夫?!」とか言って心配そうにこちらを見ている。 誰のせいなのか知っているのだろうか。 壁を背にする。まだ顔の熱が引いてくれない。 「痛かった?ごめんごめん。熱ないかと思ってさ・・・・」 「・・・・・・・・・そういう問題じゃない・・・」 自分ひとりで顔を赤くしているなんて。と思うと情けなくなるし、また馬鹿らしく思える。ようやく風邪以外の理由で赤くなった顔の熱が引く。 もう一度飲み物を喉に通し、一息ついて落ち着くと、今何をするかということを考え直すことが出来た。 「あ、・・と・・・・コレ。」 プレゼント、とぼそりと呟いた声も彼女には聞こえたようだ。 目の前の相手は至極嬉しそうに顔を綻ばせた。自分の手に在った小さな小包をゆっくり手にとる。 「ありがと、シン」 それがまた、ひどく綺麗な笑みで。その顔を見れただけでも、あのショッピングモールを1時間回っていたのは決して無駄では無かったと、そう思えるほど。 その様子を見惚れたようにずっと見ていると、不思議そうな顔でルナマリアはこちらを覗いて来る。空けてもいい?と尋ねてきた彼女に、こくりと一度頷いた。顔全体に嬉しさが満ち溢れているようだ。つられてこちらも笑みが浮かぶ。 「へぇー、指輪買ってくれたんだ・・・ありがとね」 高かったでしょ、と困ったように彼女は笑う。あまりこちらとしては困らせたくなかったから、「気にしなくていいよ」と呟いたら、もう一度綺麗な笑みを彼女は浮かばせる。胸が幸せで満たされるようだった、言葉に表せないような彼女と一緒に居るこの時間がくれる幸福感と、喜んでくれるルナマリアを見れたという満足感で。 嬉しそうに薬指にはめた。 「たまにはシンもいいことするね」 「“たまには”って何だよ・・・・」 だっていつもこういうこと無関心そうだし、とか話し始める。少し失礼だなとは思ったが、彼女の言うことだから、自然に呑み込めてしまう。 ふと思った、女性の考える指輪への概念。 確かマユも“結婚したら”もらいたいと言っていたのは指輪だった。何故か、と考えてみる。そこで一つ思い当たることは、男女の結婚の印として指輪を送る習慣。地球にあるということは、例に漏れずプラントにもあるということだ。 聞いた話では、それを嵌める場所は薬指なのだと。 もしかして自分は、とんでもないことをしてしまったかもしれない。 「・・・・・・・・・・・ルナ・・・・?」 耳まで真っ赤になってないだろうか。言葉が上手く続かないし、なにより視線すらあわせられない。ルナマリアはそんな習慣など知らない、というよりも忘れているようだ。その指に嵌められた指輪は淡く、光に反射して光る。 そんな自分の様子を見て、ルナマリアがどうしたの、と聞いてきた。また額同士をくっつけようとするものだから、いそいで身を引いた。 「ごめん・・・ってか、何と言うか・・・その・・・・」 「ちょっ、顔真っ赤よ?!大丈夫なの、シン!」 水、取り替えてくるからと、そう言って彼女はいきなり立ち上がる。心底心配そうにしている彼女の後姿を見送りながら、身体を横たえて勢いよく枕に頭を突っ込んだ。 「・・・・・・・・やっちゃったよ・・・・・・」 恨めしそうに呟いた。自分の行動に少しだけ後悔するのと、これからどうしようかという悩みが膨らむ一方だ。彼女の誕生日、本当は彼女が楽しむ1日だ。それなのに、1つの後ろめたさが過ぎる。 自分がこんなにも得していいのだろうか、と。 |