その温もりが、その笑顔が、
今此処に居るという事を証明してくれるのだろう。






プラントに攻撃した巨大破壊兵器を壊す、という任務に成功――――戦闘の緊張感が未だ離れない中、ドッグにいるクルーの拍手を受けてミネルバに戻った。鼓動が未だに早鐘を打ちつづけている。深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。戦闘終了への安堵感、そして作戦成功への喜びが入り混じる中でインパルスから降りた。もうプラントへ向けて攻撃されないのだと思うと嬉しさと安心感に涙が出そうだ。

「ルナ!」

鼓膜を叩くように響く声があった。
それがシン・アスカと理解するまではとても容易な事で、彼は笑顔を浮かべ此方に走ってくる。久しぶりのような気がしたのだ、彼の笑顔は。思えば出撃前にあれほど心配してもらったことをふと思い出す。あれほど心配しなくてもいいのに、戦う事には変わりないだろうに、と内心微笑ましくも、色々なものを背負おうとするその姿に心配したのはこちらの方だという事にシンは気付いているのだろうか?
声を掛けてくるのか、と思えば一瞬のうちに目の前が揺れ漆黒の髪が視界の半分を埋め尽くした。彼の声が理解できた容易さとは反対に、抱き締められているということを理解することは少しの時間を要した。伝わる温もりが、お互いが此処に生きているという事を証明してくれるのだろう。ゆっくりと私も抱き締め返したが、暫くして此処が「ドッグ」だという事に気付いて、急いでその場を離れた。顔の熱が引かない中、エレベーターのスイッチを押す。すぐさまその扉が開き、早く此処から立ち去りたいと、急いで入った。閉じていくドッグの光景の隅に、同僚のレイ・ザ・バレルが映ったことに顔を顰めた。
一度死ぬかと思った場面で、私を救ったのは間違いなくシンだった。助けてもらった事は嬉しかったが、逆に心配を掛けさせてしまったと申し訳なく思う。エレベーターの扉が閉まった途端に、シンはその場に座り込んだ。壁に背を凭れ掛け、顔を俯かせた光景に驚いて声を掛ける。無論私も床に腰を下ろしてシンの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?シン」
「・・・・・・・・・・・・・・・無事で、よかった」
「え?」

いきなり何だろう、驚きが意味を解すことを僅かに妨げた。無意識に情けない声を吐き出してしまったが、言葉の意味を汲み取った後はそれを後悔に思う事は無かった。「無事でよかった」というのは私の方だ。いくら強いといっても陽動で動く方が敵の数は多い、こちらはその事をずっと心配していたというのに。逆に心配されてしまったと、お互いに心配しあっていたと思うと微笑ましい。首を竦めて微笑みながらシンは言葉を紡いだ。
顔を上げて、困ったように微笑むシンの顔を見てこちらも同じくらい微笑んだ。座っている訳にいかないだろうと言って私が立ち上がった後シンに手を貸し、ゆっくりと立ち上がる。



「すごい、心配だったからさ・・・・・・ルナのこと」
戦場では、彼女が生きているのかは実際に目に見るか、レーダーに映る機影を確認する他にはない。生きているのか、怪我をしているのか、それとも危機に陥っているのかということも近くによる他、知る術無い。だがそこは戦場で、ましてや攻撃しないと自分の身すら守れない状況だ。ゆっくりと、目の前に佇む少女に微笑みかける。単機で敵の本拠に行く事がどれだけ危険なのかという事を知っておきながら、彼女はいつも他人の心配をする。本人に言ってしまったら怒られるが、戦力的に彼女がレイや自分より劣るのは事実、そう感じるのも致し方の無い事だと思う。大丈夫――――と微笑む彼女が、前まで見ていた姿とは違った強さを感じた。もしかして、自分より。

「―――――そっか、ありがとね、シン。私も助けてもらっちゃって・・・」
言葉を遮るように、両手でルナマリアの両頬に触れ、額を合わせた。守れた、ということより、生きている、ということが何にも代え難く、尊い。祈りにも類似する彼女への心配も、此処に来てようやく解かれた。祈りなど、意味が無いことは知っていた。それでも祈らずに居られない時があることも、知っている。ルナマリアは驚いたように眸を丸くし、此方を見つめる少女の顔は暫くして笑みに変わった。胸が詰まる思いだ。声を上手く発せずに、その場に佇む。

 助けてもらったのは、むしろ自分の方かもしれない。メイリンとアスランを討ち、入り乱れる様々な感情の激流に呑まれる中で、手を差し伸べてくれたのはルナマリアだった。本当は自分を忌む筈の、彼女が。ルナマリアが無事でよかった、本当に。明日も会える、声が聞ける、笑顔を見せてくれる、生きて、無事でいれさえすれば。彼女から伝わる温もりに、愛しさすら覚えた。

「いいんだ、ルナが生きてて・・・・本当によかった。」
 そう言うと、彼女はにっこりと笑い、私もかな、と言った。触れていた手を離しブリーフィングルームへ足を進める。近くにあったソファーへ腰を降ろし一息ついた。背をソファーに預け天井を見つめた。然程、これといって色の変容の無い部屋を眼球のみ動かし一望すると、視線を天井に合わした。ルナマリアはソファーに背を預ける自分と反対側に立っていた。座ればいいのに、と思ったが今の精神状態でその言葉を口にすることはなかった。
 ふと戦闘前に彼女と抱き締めあった事を思い出す。徐々に顔に赤みが差すのを覚える。いきなり抱き締めてよかったのだろうか、と後悔なのか分からないまま思案に暮れる。気苦労でしか無いかもしれないが、実際彼女の心など覗ける筈など無いのだから、それすら自分に知る術はない。
 そうしていると視界に彼女の顔が映った。揺れる深紅の髪に見入りながら視線を動かさず、彼女の顔を見据えた。すると彼女は微笑み、片手で自分の頬に触れる。彼女の綺麗な笑みを見たのは暫く無かったことのように思える。茫然と、ルナマリアの口許が言葉を紡ぐのを見ていた。


「おかえり」


 その言葉に、さっきまでの思案も、心に募る考えも取り払われた気がした。驚きの余り口を半分あけたまま彼女を凝視した。一息つくと、自然と頬が緩み笑っていることに気付く。手を伸ばし彼女の頬に触れると、手を通して体中に温もりが伝わる。生きているという事への歓喜が胸を満たす。彼女の言葉が、笑顔が、自分の居場所は此処なのだと示してくれるように思えた。微笑を浮かべながら、ゆっくりと口を開いて言葉を発する。









「ただいま」
そう言うと、ルナマリアは嬉しそうに微笑んだ。
































何故だろう。 彼女と居ると、こんなにも温かい。

Existenz (独):存在





+あとがき+
45話ってもはや神話だと思います(ォィ)
もう何回見直したか分からないよ・・・・(笑)
毎度毎度この2人にはツボを突かれてますが、今回ツボ過ぎて拍手してたり。
シンルナに此処まで骨抜きされるとは思いませんでした。
くるくる回っていた姿に後々頭ぶつけないか心配だったの私だけでしょうか。
実際45話を見たのが水曜ぐらいでしたので、更新が遅れてしまいました。
46話までなんとか間に合った・・・・!


今見直すと、趣味まっしぐらです(苦笑)