曰く、彼女は「お節介焼き」なのだと。


天気は曇り、地球へ降下してからもうしばらく経った。ミネルバはとくに支障もなく運航し、またクルー達もいつも通りの一日を送っていった。
そろそろ昼のころあいだと思い、同僚のルナマリアに声をかける。承諾をあっさりもらい、他愛もない日々の話をしながら食堂へ向かっていった。

今日の食堂のランチはシチューが付いていた。湯気とともにシチューの美味しそうな香りが鼻をくすぐる。普通ならば何事もなく嫌いなものは誰にも見つからないように隠しつつ、そのままトレーを置いて出て行くつもりだった。だが、どうやら一番見られたくない相手に見られてしまう。
「シン、ニンジン残してる」
注意するような鋭い声がひとつ。声の主は真正面に座るルナマリアだった。
やばい、気づかれた。という言葉が自分の中で浮上するのにしばらくの時間を有してしまう。いままで気づかれなかった、なんでいきなり気づくんだ。という気持ちが邪魔したせいかもしれない。
「・・・・・後で食べるんだよ」
苦し紛れにその一言だけ呟くと、他の食べ物に手をつける。普通はここで引き下がってくれると嬉しいが、どうにもそうはいかないらしい。
「そう言って、残すんでしょー」
「あーもう、うるさいなぁルナは」
しばらくの掛け合いを繰り返する。そして、食べ終わってしまうと、残るはニンジンだけだ。言い逃れができない状況になってしまった。嫌いなものがニンジンなどと、また絶対彼女は自分をガキ扱いするに決まっている。
すると、ルナマリアはシンの分であるニンジンをフォークで突き刺すと、シンの前に突き出した。要は、「食え」ということだ。そんなことより、これは彼女のフォークだ、だとすると自分が此処でこのフォークを使うということは、もしかして。ぐるぐるとその考えが回る。顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そのぐらい自分で食べる!」
「シンってばいつまで経ってもそう言って食べないじゃない。ほら、食べたらこれあげるから」
 紅い軍服から取り出されたのは、鮮やかな青色のリボンで口を結ばれた可愛らしくラッピングされた小さなイチゴのタルト。お茶と一緒に食べるようなおやつだろう。見るとおいしそうだが、なにより彼女がこんなものを持ってたということに驚く。
「・・・・・・・俺はガキかよ」
お菓子をもらうために嫌いなものを食べる、そんなことをヨウラン達が聞いたら笑い話になるし、なによりそんな子どもみたいなこと、彼女の前でなんて、たまったもんじゃない。
「ガキじゃない」
「一歳しか離れてないだろっ!」
なにより、あっさりとガキ扱いされてしまったのと、たかだか一歳でこうも年下に見られた悔しさで、声が荒くなる。それでも、そんなことは日常のことで、いつもこんな感じで言いあってたりするのだから、何をいまさらといった感じになるだろう。
「もう休憩少ないんだから、早く食べる!」
急かすように、ずいっと、またニンジンの刺さったまま突き出す。
クルー達の視線がどうにも痛い。それは只でさえ目立つ赤服である少女がニンジンを刺したフォークを同じ赤服の少年に突き出している姿は、はたからみていかにも変であったし、また2人の間柄を知っているものであればその光景を微笑ましく見ていたかもしれない

「うっ・・・・・」
結局は妥協して食べるしかない。色々な視線を受けながら、また間接的にでも彼女と同じ食器を使うことへの気恥ずかしさで顔を赤くしながら。

結果的にもらったイチゴのタルトを、彼女が口惜しそうにしているを見て。
半分あげてしまったのと、そのタルトがやたら甘くておもわず咽てしまったことも、また別の話としておこう。



























どうやら、当分先「弟分」から抜け出せそうにないようだ。



Erdbeertorte (独):イチゴのタルト